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雑俳の愉しみ方(式目集3)

 「うまいねどぉ〜も川柳道場」では、川柳以外にも、洒落附、冠沓、山号寺号など、江戸時代に市中で大流行したさまざまな言葉遊びをお楽しみいただいております。


洒落附(シャレヅケ)冠沓(カンクツ)気結冠沓(キムスビカンクツ)地口附(ジグチヅケ)
地口附『いろはがるた』地口附『小倉百人一首』院山寺号(インサンジゴウ)


●洒落附(シャレヅケ)

 洒落附は、式目(※1)に則ったことば遊びであり、
 近年流行の「駄洒落」とは一線を画したものです。

 洒落附は、何よりまず実際の作品をご覧いただいたほうが早いでしょう。

  【例句】 
  まつげは誰にでもある  (入船亭 扇遊/雑俳「つ花連」)
  二の腕話          (柳家 小ゑん/雑俳「つ花連」) 

 最初の句は「間違ぇは誰にでもある」、次の句は「身の上話」を本文として
 洒落たものだということが、おわかりでしょうか。
 当番組の「過去の採用句」にも、番組投稿者の皆様の作例がたくさんありますから
 洒落附がまったく初めてという方は、ぜひそちらもご覧ください。

 では洒落附のきまりごとをご説明します。用語解説も兼ねます。


 ・「兼題」

   洒落附の募集は大抵の場合兼題でおこなわれます。
   洒落附のお題の出し方は、通常『古今東西○○一切』という型式をとります。

    例:『古今東西冬の物事一切』『古今東西家庭道具一切』
      『古今東西国名・藩名一切』『古今東西有名人の名前一切』

   また『時事吟』と出題される事もありますが、
   この場合は、その時の流行、風俗、事件、行事などを
   もちいて本文に絡めます(当番組では「時事吟」は行われません)。


 ・「表/裏」

   洒落る前の土台となる本文を「裏」といい、
   そのまま「本文(ほんもん)」と呼ぶ方もいらっしゃいます。
   それに対して、洒落た後の句(作品)を「表」といいます。

    例:[表(作品)]瞳 あったその日から
      [裏(本文)]一目 あったその日から

   このうち、作品として投句されるのは「表」だけです。
   投句の際は、裏を書き添えないきまりになっています。


 ・[附(アタマヅケ)] ☆必須ルールです

  洒落附では必ず
  本文の頭の部分を使って洒落なければなりません。


   さきほどの例でいえば、「一目 あったその日から」を本文として
   洒落を作ろうとしたら「一目」や「一目あった」など「頭を含む部分」
   を、お題に沿った言葉で洒落なければなりません。

    良くない例:
      [表]  夜霧の第二食道
      [裏]  夜霧の第二国道

   「国道」を「食堂」で洒落たのでしょうが、
   頭附けになっていないためこれは「病句(※9)(やまい句)」となって、
   自動的に評価対象から外されます。

   病句(※9)はルールからはずれた句を意味しますから、
   どんなに面白くても、評価されません。


 ・[同音禁止] ☆必須ルールです

   裏の言葉と同じ音、
   同じ読みの言葉を選んではいけません。


   雑俳はあくまで「口にだしてわかること」が重要だからです。

    良くない例:
      [表] 小腸削減 (ショウチョウさくげん)
      [裏] 省庁削減 (ショウチョウさくげん)

      「省庁」を「小腸」で洒落たのでしょうが、
   どちらも「ショウチョウ」では口に出した時、わかりません。
   こういう句は「病句(※9)」とされ、自動的に評価対象から外されます。
   どんなに面白くても、評価されません。


 ・[洒落は一カ所まで]

   ひとつの句(雑俳では作品をすべて「句」と呼びます)の中で
   二カ所以上ひねって洒落てあるものは病句(※9)になります。
   どんなに面白いものを思いついても、そこはガマン。


 ・[表が立っていること]

   表(作品)の意味が通らない句は、どんなに面白くても

   高い評価を得ることはできません。
   「表」の意味が通っていることが大事です。


 ・[表裏一体]

   表と裏の意味が「付かず離れず」
   面白みを醸し出している場合
   高い評価を得やすくなります。

  よい洒落とは、
  1.【表】の意味が通じる(表が立っている)こと。
  2.【表】の意味と【裏】の意味が、
        付かず離れず(表裏一体)であること。
  3.語感がよいこと・・・ など。

実例

 では、まとめとして
 「古今東西・人体の名称一切」というお題で
 具体的に解説しましょう。

  お題 『洒落附 古今東西人体名称一切』 

 この場合、古今東西なので、古語でも現代語でも、
  外来語、外国語の呼び名でも、
  方言でも俗語でも「世間で通用していれば」良しとします。
   例:肩・手先・足・鼻・肝臓・レバー・うなじ・三半規管・二の腕・あんよ

  例句:表(作品) 瞳あったその日から
     裏(本文) 一目あったその日から

  ※実際の投句は例句(表)だけ。
   投句の際に裏(本文)を書き添えてはいけません。

 1 「病句(※9)になっていないかどうか」

   病句(※9)の条件にひっかかっていれば、どんなに面白くても×です。
   まず、洒落た部分は「一目」→「瞳」。句の頭になっています。
   次に「ひとめ」と「ひとみ」。同音ではありませんね。
   そして、二カ所以上洒落てはいません。
   つまり、この句は「病句(※9)」にはあたらない、と判断できます。

 2 「表が立っているかどうか」

   表が立っている句は評価を得やすいのですが、
   「瞳あったその日から」を表が立っているかどうか判断するのは、
   実際には撰者の判断にかかっています。

   この句の場合「瞳と瞳がみつめあった」ような状況を想像させるので
   表が立っていると判断されやすいですが、
   中には撰者によって判断がわかれるものもあります。

   先にあげた例句「まつげは誰にでもある(入船亭 扇遊)」の場合は

    例句:表(作品) まつげは誰にでもある
       裏(本文) 間違ぇは誰にでもある

   ・・・で、表は「睫毛(まつげ)はだれにでもある」と取れるので、
   あきらかに表が立っていると判断されます。

 3 「表裏一体かどうか」

   高得点を狙おうと思ったら、表裏一体は欠かせません。
   「瞳あった(表)」と「一目あった(裏)」・・・
   似たような状況に見えて、実は「瞳」のほうがもっと・・・という感じ。
   まさに表裏の意味が、付かず離れずの関係にあります。

   先にあげた例句「二の腕話」(柳家小ゑん)の場合は 

    例句:表(作品) 二の腕話
       裏(本文) 身の上話

   ・・・となりますが、いかがでしょうか。

 昔は、よく「はな命」「せつ命」などと
 二の腕(上腕部)に惚れた相手の名を彫った人がいたものですが
 二の腕をまくって、そこに彫った名前の由来をきかせている・・・
 「二の腕話」という句はそんな情景を想像させます。
 まさに「二の腕を見せながら聴かせる、身の上話」ということで
 表が立ち、かつ、表裏一体の良い句だ、ということで評価されたのです。

 洒落附をはじめ、雑俳の面白いところは、
 上記のような「情景」を思い浮かべながら作者が句を作るというだけでなく、
 作者が何気なく作った句から、
 撰者が思いもよらないような情景・解釈を引き出す点にあります。

 撰者がどう解釈し、どういう理由で選んだかは、
 雑俳の世界では撰者が「効キ」をつけて示す事になっています。
 これは雑俳ならではの楽しみであり、
 撰者は「効キ」によって優れた句を引き立てます。
 これも撰者からの褒賞の一つといえます。

 「効キ」については、別項で改めてご説明します。




●冠沓(カンクツ)

冠沓は、任意の言葉を任意の箇所から2つに分け、
それを上の(※6)と下の(※6)に入れて、短句ををつくる遊びです。

【例句】
 「ドクダミ」  毒だと知ってつまむ青い実 (柳家 小ゑん/雑俳「つ花連」)
        ドクダとしってつまむあおいミ

 「アヤメ」  あやし疲れて母が閉じる目  (入船亭扇遊/雑俳「つ花連」)
     アヤしつかれてははがとじるメ

 川柳の式目をお読みになった方は「割句川柳」との取り違えにご注意下さい。
 お題の扱い方は割句川柳と同じですが、こちらは短句(7・7)の種目です。


 1)お題にそった言葉を選ぶ

 まず、お題は『花の名前・三音以上』というような型式で出題されます。

 そこで作者は「スイセン」「ヒマワリ」「アヤメ」「スミレ」「アマリリス」など、
 三音以上の花の名前をひとつ選び、それで句を作りはじめます。
 「ユリ」「キク」「バラ」など、二音(仮名で2文字)の花は不可です。


 2)選んだ言葉を二つに分ける

 次に、選んだ花の名前を任意の箇所でに2つに分けます。
 「スイセン」の場合「ス・イセン」「スイ・セン」「スイセ・ン」のどこでも結構。


 3)分けた言葉を短句の冠と沓に配して、句を作る

 これを句の冠と沓(※6)に配して、短句(七・七)を作るのです。
 以下の表をご覧下さい。

 
   
                               
   
                               
   

  【例句】
   スイセン   好き同志には野暮な盃洗(橘右之吉/雑俳「つ花連」)
  (ス+イセン)  スきどうしには やぼなはイセン

 2つに分けたことばがうまく入った、短句になっています。


 4)文字の重複は病句

 なお、次のようにことばが重複すると病句(※9)になります。

  【病句の例】
 ×  スイセン   酸いも甘いもすすぐ盃洗
  (スイ+イセン)  スイもあまいもすすぐはイセン
   ※「イ」が重複し、「スイイセン」となっているため病句(※9)


 5)高得点を目指すなら

  冠沓をはじめ短句(七・七)型式の種目は、以下の仕様が有利となります。

 ◆文末を体言止め(名詞・代名詞)で終わる
 ◆ 文末を三音止めにしない

 短句(七・七)の下七は音節の区切れ方で
 「二・五」「三・四」「四・三」「五・二」などの形になりますが、
 このうち「四・三」(三音止め)は、
 音調的に次の長句(五・七・五)を誘引するため、
 短句で完結する冠沓などの種目では避けられます。

【高得点をとりにくい作例】
                 
             
                                   


ナニがナニしてナントやら・・・と、続けたくなるので、
こういう三音止めは不利です。
従って、高得点を目指す方は、ぜひ「二音止め」「四音止め」になるよう
調整しながらお作りください。




●気結冠沓(キムスビカンクツ)

作り方は冠沓と同様ですが
選んだ言葉に関する内容の短句(七・七)をつくります。


【例句】 お題が『家の部分・建具の名称』の場合

「縁側(エンガワ)」  縁が切れずに番茶呑むしわ   (柳家小ゑん/雑俳「つ花連」)

            エンガきれずにばんちゃのむし

( ※選んだ「縁側」での情景が表われた短句になっています。)




●地口附(ジグチヅケ)

お題にちなんだ言葉を選び、
それに似せた言い方で別の内容に作り替える遊びです。



出されたお題に沿って題材とした句や文を元に、
似せた言い方で、違う内容に作り変える遊びです。
元にしたことばが分かれば、どの部分をどのように変えても構いません。

必ず「頭附けで洒落る」のがルールの「洒落附」とは違い、
地口附は、題材のことばや文がわかり、
かつ、表が立っていれば(洒落附け参照)、どの部分をどのように変えても、構いません。


お題は『有名歌謡曲のタイトル』『いろは歌留多』のように出題されます。

 1)実例:『有名歌謡曲のタイトル』の場合

 たとえばここで、題にそって歌謡曲「ベットで煙草を吸わないで」を選んだとします。

 たとえば・・・

 【例句】 ベットで卵を吸わないで  (柳家小ゑん/雑俳「つ花連」)

 「煙草」と「卵」は言葉が似ており、元がわかりやすい言い換えです。

 一方、

 【よくない例】  ベットでストローを吸わないで

 「煙草」と「ストロー」はあまりに音が離れていて、
  元がわかりにくいので、地口としての評価は得られないでしょう。

 上記の例は、ともに表が立っていますが、
 「ストロー」より、「卵」の方が、元にしたフレーズがわかりやすくいようです。


【例句】 『有名歌謡曲のタイトル』    月があっても怖いから    (柳家小ゑん/雑俳「つ花連」)
   (本文:月がとっても青いから)

※ 第六回放送入賞作品より
・ 乾杯代わりの汁      (漉餡取手さん/番組御常連【天】)

   (本文:上海帰りのリル)

・ イソジン           (阿猫さん/番組御常連【地】)
   (本文:イマジン)

・ もう古稀なのか      (給金少将さん/番組御常連人】)
   (本文:もう恋なのか)




●地口附『いろはがるた』

「いろはがるた」から自由に一つ選び、
地口の要領で別の内容に作り替える遊びです。

お題は『地口附・いろはがるた』と出題されます。


【例句】 

・ ウエイターに水    (柳家小ゑん/雑俳「つ花連」)
 (本文) 立板に水 [江戸いろはがるた]

・ 届けの判も三度    (柳家小ゑん/雑俳「つ花連」)
 (本文) 仏の顔も三度 [江戸いろはがるた]

 ※ 第十五回放送分より
・ ドンより正午      (他抜局 さん/当番組御常連【天】)
 (本文) 論より証拠 [江戸いろはがるた]

・ インド歩けば像に当たる (熊のペー さん/当番組御常連【地】)
 (本文) 犬も歩けば棒にあたる [江戸いろはがるた]

・ 瓜があれば氷ひっこむ  (シベリア剛速球さん/当番組御常連【人】)
 (本文) 無理が通れば道理引っ込む [江戸いろはがるた]


おなじみ『いろはがるた』から好きな文句を選んで地口附をするという遊びです。

「東西いろはがるた一覧」はこちら

当番組では『江戸かるた』を基本に出題していますが
全国放送ということもあり『京かるた』『大坂かるた』については
そのまま受け付けております。

ただ、時代と共にかるたの句も変遷しており、
現在市販のものからは、過去有名であったものがはずされていることもあり
当番組でもできるだけチェックしておりますが
お気づきの点はお知らせ下さい。

また『ドラえもんかるた』や『尾張かるた』『上毛かるた』など
かるたにも世代、時代、地域の違いが大きく反映されているようです。 ぜひ、みなさんご存じの「かるた話」を、当番組の自由掲示板などで
おきかせくださいませ。




●地口『小倉附』

小倉百人一首に詠まれている句を選び
それを土台にして地口附する遊びです。
基本的な遊びかたは地口附けと同じです。

「小倉百人一首」はこちら




●院山寺号(インサンジゴウ)

仏寺の「院・山・寺」号をもじって
自由な長さで句を作る遊びです。

金竜浅草、 神齢悉地護国、 東叡寛永など
仏寺独特の名前のつけかたを「院山寺号」「山号寺号」などと呼びますが
言葉の末尾が順に『〜いん〜さん〜じ 』『〜さん〜いん〜じ 』『〜いん〜じ 』
『〜さん〜じ』 になるような句をつくる遊びです。
長句、短句などの型式や、字数の制限はありません。

【例句】

  お坊さん総動大法    (五街道雲助/雑俳「つ花連」)

  (おぼうさん そうどういん だいほう

  御落風雲     (柳家小ゑん/雑俳「つ花連」)
  (ごらくいん ふううん

※ 第十三回放送入賞作品より
  高額予大工    (没溜千件さん/番組御常連【天】)

  (こうがくよさん だいこう)  

  姑退大掃     (ココ・チャンネルさん/番組御常連【地】)
  (しゅうとめたいいん おおそう) 

  シーン撮影五   (シベリア剛速球さん/番組御常連【人】)
  (しーんさん さつえいご) 



川柳の主なしばり
<式目集1>笠附(カサヅケ)伊勢笠附(イセカサヅケ)沓附(クツヅケまたはクッツケ)
据字附(スエジヅケ)前句附(マエクヅケ)

<式目集2>折句附(オリクヅケ)気結折句(キムスビオリク) 同字折句(ドウジオリク)
読込川柳 立入川柳割句川柳


【目次】
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■雑俳の愉しみ方(式目集3)
■自由連句のたのしみかた

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【川柳の愉しみ方】
監修:柳家小ゑん(半駄小手咲)
制作:有線ブロードネットワークス「うまいねどぉ〜も川柳道場」 2004.6.26
管理:(株)NASA k@owarai.to 担当:川崎隆章