いろは

■小倉百人一首

No.	上の句（五・七・五）	下の句（七・七）	作者	出典
1	秋の田のかりほの庵の苫をあらみあきのたのかりほのいほのとまをあらみ	わが衣手は露にぬれつつわがころもではつゆにぬれつつ	天智天皇(中大兄皇子)	「後撰集」
2	春過ぎて夏来にけらし白妙のはるすぎてなつきにけらししろたへの	衣ほすてふ天の香具山ころもほすてふあまのかぐやま	持統天皇	「新古今集」
3	あしびきの山鳥の尾のしだり尾のあしびきのやまどりのをのしだりをの	ながながし夜をひとりかも寝むながながしよをひとりかもねむ	柿本人麻呂	「拾遺集」
4	田子の浦にうち出でて見れば白妙のたごのうらにうちいでてみればしろたへの	富士の高嶺に雪は降りつつふじのたかねにゆきはふりつつ	山部赤人	「新古今集」
5	奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿のおくやまにもみぢふみわけなくしかの	声聞く時ぞ秋は悲しきこえきくときぞあきはかなしき	猿丸大夫	「古今集」
6	かささぎの渡せる橋に置く霜のかささぎのわたせるはしにおくしもの	白きを見れば夜ぞふけにけるしろきをみればよぞふけにける	中納言家持(大伴家持)	「新古今集」
7	天の原ふりさけ見れば春日なるあまのはらふりさけみればかすがなる	三笠の山に出でし月かもみかさのやまにいでしつきかも	安倍仲麿(安倍仲麻呂)	「古今集」
8	わが庵は都のたつみしかぞ住むわがいほはみやこのたつみしかぞすむ	世をうぢ山と人はいふなりよをうぢやまとひとはいふなり	喜撰法師	「古今集」
9	花の色は移りにけりないたづらにはなのいろはうつりにけりないたづらに	わが身世にふるながめせし間にわがみよにふるながめせしまに	小野小町	「古今集」
10	これやこの行くも帰るも別れてはこれやこのゆくもかへるもわかれては	知るも知らぬもあふ坂の関しるもしらぬもあふさかのせき	蝉丸	「後撰集」
11	わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬとわたのはらやそしまかけてこぎいでぬと	人には告げよあまのつり舟ひとにはつげよあまのつりぶね	参議篁(小野篁)	「古今集」
12	天つ風雲の通ひ路吹き閉ぢよあまつかぜくものかよひぢふきとぢよ	乙女の姿しばしとどめむをとめのすがたしばしとどめむ	僧正遍昭	「古今集」
13	筑波嶺のみねより落つるみなの川つくばねのみねよりおつるみなのがは	恋ぞつもりて淵となりぬるこひぞつもりてふちとなりぬる	陽成院	「後撰集」
14	陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑにみちのくのしのぶもぢずりたれゆゑに	乱れそめにし我ならなくにみだれそめにしわれならなくに	河原左大臣(源融)	「古今集」
15	君がため春の野に出でて若菜つむきみがためはるののにいでてわかなつむ	わが衣手に雪は降りつつわがころもでにゆきはふりつつ	光孝天皇	「古今集」
16	立ち別れいなばの山の峰に生ふるたちわかれいなばのやまのみねにおふる	まつとし聞かば今帰り来むまつとしきかばいまかへりこむ	中納言行平(在原行平)	「古今集」
17	ちはやぶる神代も聞かず竜田川ちはやぶるかみよもきかずたつたがは	からくれなゐに水くくるとはからくれなゐにみづくくるとは	在原業平朝臣	「古今集」
18	住の江の岸に寄る波よるさへやすみのえのきしによるなみよるさへや	夢の通ひ路人目よくらむゆめのかよひぢひとめよくらむ	藤原敏行朝臣	「古今集」
19	難波潟短き蘆のふしの間もなにはがたみじかきあしのふしのまも	逢はでこの世を過ぐしてよとやあはでこのよをすぐしてよとや	伊勢	「新古今集」
20	わびぬれば今はた同じ難波なるわびぬればいまはたおなじなにはなる	みをつくしても逢はむとぞ思ふみをつくしてもあはむとぞおもふ	元良親王	「後撰集」
21	今来むといひしばかりに長月のいまこむといひしばかりにながつきの	有明の月を待ち出でつるかなありあけのつきをまちいでつるかな	素性法師	「古今集」
22	吹くからに秋の草木のしをるればふくからにあきのくさきのしをるれば	むべ山風をあらしといふらむむべやまかぜをあらしといふらむ	文屋康秀	「古今集」
23	月見れば千々に物こそ悲しけれつきみればちぢにものこそかなしけれ	わが身ひとつの秋にはあらねどわがみひとつのあきにはあらねど	大江千里	「古今集」
24	このたびは幣も取りあへず手向山このたびはぬさもとりあへずたむけやま	紅葉の錦神のまにまにもみぢのにしきかみのまにまに	菅家(菅原道真)	「古今集」
25	名にし負はばあふ坂山のさねかづらなにしおはばあふさかやまのさねかづら	人に知られでくるよしもがなひとにしられでくるよしもがな	三条右大臣(藤原定方)	「後撰集」
26	小倉山みねのもみぢ葉心あらばおぐらやまみねのもみぢばこころあらば	今ひとたびのみゆき待たなむいまひとたびのみゆきまたなむ	貞信公(藤原忠平)	「拾遺集」
27	みかの原わきて流るるいづみ川みかのはらわきてながるるいづみがは	いつみきとてか恋しかるらむいつみきとてかこひしかるらむ	中納言兼輔(藤原兼輔)	「新古今集」
28	山里は冬ぞさびしさまさりけるやまざとはふゆぞさびしさまさりける	人目も草もかれぬと思へばひとめもくさもかれぬとおもへば	源宗于朝臣	「古今集」
29	心あてに折らばや折らむ初霜のこころあてにをらばやをらむはつしもの	置きまどはせる白菊の花おきまどはせるしらぎくのはな	凡河内躬恒	「古今集」
30	有明のつれなく見えし別れよりありあけのつれなくみえしわかれより	暁ばかり憂きものはなしあかつきばかりうきものはなし	壬生忠岑	「古今集」
31	朝ぼらけ有明の月と見るまでにあさぼらけありあけのつきとみるまでに	吉野の里に降れる白雪よしののさとにふれるしらゆき	坂上是則	「古今集」
32	山川に風のかけたるしがらみはやまがはにかぜのかけたるしがらみは	流れもあへぬ紅葉なりけりながれもあへぬもみぢなりけり	春道列樹	「古今集」
33	ひさかたの光のどけき春の日にひさかたのひかりのどけきはるのひに	しづこころなく花の散るらむしづこころなくはなのちるらむ	紀友則	「古今集」
34	誰をかも知る人にせむ高砂のたれをかもしるひとにせむたかさごの	松も昔の友ならなくにまつもむかしのともならなくに	藤原興風	「古今集」
35	人はいさ心も知らずふるさとはひとはいさこころもしらずふるさとは	花ぞ昔の香ににほひけるはなぞむかしのかににほひける	紀貫之	「古今集」
36	夏の夜はまだ宵ながら明けぬるをなつのよはまだよひながらあけぬるを	雲のいづこに月宿るらむくものいづこにつきやどるらむ	清原深養父	「古今集」
37	白露に風の吹きしく秋の野はしらつゆにかぜのふきしくあきののは	つらぬきとめぬ玉ぞ散りけるつらぬきとめぬたまぞちりける	文屋朝康	「後撰集」
38	忘らるる身をば思はず誓ひてしわすらるるみをばおもはずちかひてし	人の命の惜しくもあるかなひとのいのちのをしくもあるかな	右近	「拾遺集」
39	浅茅生の小野の篠原忍ぶれどあさぢふのをののしのはらしのぶれど	あまりてなどか人の恋しきあまりてなどかひとのこひしき	参議等(源等)	「後撰集」
40	忍ぶれど色に出でにけりわが恋はしのぶれどいろにいでにけりわがこひは	物や思ふと人の問ふまでものやおもふとひとのとふまで	平兼盛	「拾遺集」
41	恋すてふわが名はまだき立ちにけりこひすてふわがなはまだきたちにけり	人知れずこそ思ひそめしかひとしれずこそおもひそめしか	壬生忠見	「拾遺集」
42	契りきなかたみに袖をしぼりつつちぎりきなかたみにそでをしぼりつつ	末の松山波越さじとはすゑのまつやまなみこさじとは	清原元輔	「後拾遺集」
43	逢ひ見ての後の心にくらぶればあひみてののちのこころにくらぶれば	昔は物を思はざりけりむかしはものをおもはざりけり	権中納言敦忠	「拾遺集」
44	逢ふことの絶えてしなくはなかなかにあふことのたえてしなくはなかなかに	人をも身をも恨みざらましひとをもみをもうらみざらまし	中納言朝忠(藤原朝忠)	「拾遺集」
45	あはれともいふべき人は思ほえであはれともいふべきひとはおもほえで	身のいたづらになりぬべきかなみのいたづらになりぬべきかな	謙徳公(藤原伊尹)	「拾遺集」
46	由良の門を渡る舟人かぢを絶えゆらのとをわたるふなびとかぢをたえ	ゆくへも知らぬ恋の道かなゆくへもしらぬこひのみちかな	曽禰好忠	「新古今集」
47	八重葎しげれる宿のさびしきにやへむぐらしげれるやどのさびしきに	人こそ見えね秋は来にけりひとこそみえねあきはきにけり	恵慶法師	「拾遺集」
48	風をいたみ岩うつ波のおのれのみかぜをいたみいはうつなみのおのれのみ	砕けて物を思ふころかなくだけてものをおもふころかな	源重之	「詞花集」
49	御垣守衛士の焚く火の夜は燃えみかきもりゑじのたくひのよるはもえ	昼は消えつつ物をこそ思へひるはきえつつものをこそおもへ	大中臣能宣朝臣	「詞花集」
50	君がため惜しからざりし命さへきみがためをしからざりしいのちさへ	長くもがなと思ひけるかなながくもがなとおもひけるかな	藤原義孝	「後拾遺集」
51	かくとだにえやは伊吹のさしも草かくとだにえやはいぶきのさしもぐさ	さしも知らじな燃ゆる思ひをさしもしらじなもゆるおもひを	藤原実方朝臣	「後拾遺集」
52	明けぬれば暮るるものとは知りながらあけぬればくるるものとはしりながら	なほ恨めしき朝ぼらけかななほうらめしきあさぼらけかな	藤原道信朝臣	「後拾遺集」
53	嘆きつつひとり寝る夜の明くる間はなげきつつひとりぬるよのあくるまは	いかに久しきものとかは知るいかにひさしきものとかはしる	右大将道綱母	「拾遺集」
54	忘れじの行く末まではかたければわすれじのゆくすゑまではかたければ	けふを限りの命ともがなけふをかぎりのいのちともがな	儀同三司母	「新古今集」
55	滝の音は絶えて久しくなりぬれどたきのねはたえてひさしくなりぬれど	名こそ流れてなほ聞こえけれなこそながれてなほきこえけれ	大納言公任(藤原公任)	「拾遺集」
56	あらざらむこの世のほかの思ひ出にあらざらむこのよのほかのおもひでに	いまひとたびの逢ふこともがないまひとたびのあふこともがな	和泉式部	「後拾遺集」
57	めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間にめぐりあひてみしやそれともわかぬまに	雲隠れにし夜半の月かなくもがくれにしよはのつきかな	紫式部	「新古今集」
58	有馬山猪名の笹原風吹けばありまやまゐなのささはらかぜふけば	いでそよ人を忘れやはするいでそよひとをわすれやはする	大弐三位(藤原賢子)	「後拾遺集」
59	やすらはで寝なましものを小夜ふけてやすらはでねなましものをさよふけて	かたぶくまでの月を見しかなかたぶくまでのつきをみしかな	赤染衛門	「後拾遺集」
60	大江山いくのの道の遠ければおほえやまいくののみちのとほければ	まだふみもみず天の橋立まだふみもみずあまのはしだて	小式部内侍	「金葉集」
61	いにしへの奈良の都の八重桜いにしへのならのみやこのやへざくら	けふ九重ににほひぬるかなけふここのへににほひぬるかな	伊勢大輔	「詞花集」
62	夜をこめて鳥の空音ははかるともよをこめてとりのそらねははかるとも	よにあふ坂の関はゆるさじよにあふさかのせきはゆるさじ	清少納言	「後拾遺集」
63	今はただ思ひ絶えなむとばかりをいまはただおもひたえなむとばかりを	人づてならでいふよしもがなひとづてならでいふよしもがな	左京大夫道雅(藤原道雅)	「後拾遺集」
64	朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあさぼらけうぢのかはぎりたえだえに	あらはれわたる瀬々の網代木あらはれわたるせぜのあじろぎ	権中納言定頼(藤原定頼)	「千載集」
65	恨みわび乾さぬ袖だにあるものをうらみわびほさぬそでだにあるものを	恋に朽ちなむ名こそ惜しけれこひにくちなむなこそをしけれ	相模	「後拾遺集」
66	もろともにあはれと思へ山桜もろともにあはれとおもへやまざくら	花よりほかに知る人もなしはなよりほかにしるひともなし	大僧正行尊	「金葉集」
67	春の夜の夢ばかりなる手枕にはるのよのゆめばかりなるたまくらに	かひなく立たむ名こそ惜しけれかひなくたたむなこそをしけれ	周防内侍	「千載集」
68	心にもあらでうき世にながらへばこころにもあらでうきよにながらへば	恋しかるべき夜半の月かなこひしかるべきよはのつきかな	三条院	「後拾遺集」
69	あらし吹く三室の山のもみぢ葉はあらしふくみむろのやまのもみぢばは	竜田の川の錦なりけりたつたのかはのにしきなりけり	能因法師	「後拾遺集」
70	さびしさに宿を立ち出でてながむればさびしさにやどをたちいでてながむれば	いづくも同じ秋の夕暮いづくもおなじあきのゆふぐれ	良暹法師	「後拾遺集」
71	夕されば門田の稲葉おとづれてゆふさればかどたのいなばおとづれて	蘆のまろやに秋風ぞ吹くあしのまろやにあきかぜぞふく	大納言経信	「金葉集」
72	音に聞く高師の浜のあだ波はおとにきくたかしのはまのあだなみは	かけじや袖のぬれもこそすれかけじやそでのぬれもこそすれ	祐子内親王家紀伊	「金葉集」
73	高砂の尾上の桜咲きにけりたかさごのをのへのさくらさきにけり	外山の霞立たずもあらなむとやまのかすみたたずもあらなむ	権中納言匡房(大江匡房)	「後拾遺集」
74	憂かりける人を初瀬の山おろしようかりけるひとをはつせのやまおろしよ	はげしかれとは祈らぬものをはげしかれとはいのらぬものを	源俊頼朝臣	「千載集」
75	契りおきしさせもが露を命にてちぎりおきしさせもがつゆをいのちにて	あはれ今年の秋もいぬめりあはれことしのあきもいぬめり	藤原基俊	「千載集」
76	わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたのわたのはらこぎいでてみればひさかたの	雲ゐにまがふ沖つ白波くもゐにまがふおきつしらなみ	法性寺入道前関白太政大臣(藤原忠通)	「詞花集」
77	瀬を早み岩にせかるる滝川のせをはやみいはにせかるるたきがはの	われても末に逢はむとぞ思ふわれてもすゑにあはむとぞおもふ	崇徳院	「詞花集」
78	淡路島かよふ千鳥の鳴く声にあはぢしまかよふちどりのなくこゑに	いく夜ねざめぬ須磨の関守いくよねざめぬすまのせきもり	源兼昌	「金葉集」
79	秋風にたなびく雲の絶え間よりあきかぜにたなびくくものたえまより	もれ出づる月の影のさやけさもれいづるつきのかげのさやけさ	左京大夫顕輔(藤原顕輔)	「新古今集」
80	長からむ心も知らず黒髪のながからむこころもしらずくろかみの	乱れて今朝は物をこそ思へみだれてけさはものをこそおもへ	待賢門院堀河	「千載集」
81	ほととぎす鳴きつる方を眺むればほととぎすなきつるかたをながむれば	ただ有明の月ぞ残れるただありあけのつきぞのこれる	後徳大寺左大臣(藤原実定)	「千載集」
82	思ひわびさても命はあるものをおもひわびさてもいのちはあるものを	憂きに堪へぬは涙なりけりうきにたへぬはなみだなりけり	道因法師	「千載集」
83	世の中よ道こそなけれ思ひ入るよのなかよみちこそなけれおもひいる	山の奥にも鹿ぞ鳴くなるやまのおくにもしかぞなくなる	皇太后宮大夫俊成(藤原俊成)	「千載集」
84	ながらへばまたこの頃やしのばれむながらへばまたこのごろやしのばれむ	憂しと見し世ぞ今は恋しきうしとみしよぞいまはこひしき	藤原清輔朝臣	「新古今集」
85	夜もすがら物思ふころは明けやらでよもすがらものおもふころはあけやらで	閨のひまさへつれなかりけりねやのひまさへつれなかりけり	俊恵法師	「千載集」
86	嘆けとて月やは物を思はするなげけとてつきやはものをおもはする	かこち顔なるわが涙かなかこちがほなるわがなみだかな	西行法師	「千載集」
87	村雨の露もまだひぬ槙の葉にむらさめのつゆもまだひぬまきのはに	霧たちのぼる秋の夕暮きりたちのぼるあきのゆふぐれ	寂蓮法師	「新古今集」
88	難波江の蘆のかりねのひとよゆゑなにはえのあしのかりねのひとよゆゑ	みをつくしてや恋ひわたるべきみをつくしてやこひわたるべき	皇嘉門院別当	「千載集」
89	玉の緒よ絶えなば絶えねながらへばたまのをよたえなばたえねながらへば	忍ぶることの弱りもぞするしのぶることのよわりもぞする	式子内親王	「新古今集」
90	見せばやな雄島のあまの袖だにもみせばやなをじまのあまのそでだにも	濡れにぞ濡れし色はかはらずぬれにぞぬれしいろはかはらず	殷富門院大輔	「千載集」
91	きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろにきりぎりすなくやしもよのさむしろに	衣かたしきひとりかも寝むころもかたしきひとりかもねむ	後京極摂政前太政大臣(藤原良経)	「新古今集」
92	わが袖は潮干に見えぬ沖の石のわがそではしほひにみえぬおきのいしの	人こそ知らね乾く間もなしひとこそしらねかわくまもなし	二条院讃岐	「千載集」
93	世の中は常にもがもな渚漕ぐよのなかはつねにもがもななぎさこぐ	あまの小舟の綱手かなしもあまのをぶねのつなでかなしも	鎌倉右大臣(源実朝)	「新勅撰集」
94	み吉野の山の秋風小夜ふけてみよしののやまのあきかぜさよふけて	ふるさと寒く衣うつなりふるさとさむくころもうつなり	参議雅経(藤原雅経)	「新古今集」
95	おほけなくうき世の民におほふかなおほけなくうきよのたみにおほふかな	わがたつ杣に墨染の袖わがたつそまにすみぞめのそで	前大僧正慈円	「千載集」
96	花さそふ嵐の庭の雪ならではなさそふあらしのにはのゆきならで	ふりゆくものはわが身なりけりふりゆくものはわがみなりけり	入道前太政大臣(藤原公経)	「新勅撰集」
97	来ぬ人をまつほの浦の夕なぎにこぬひとをまつほのうらのゆふなぎに	焼くや藻塩の身もこがれつつやくやもしほのみもこがれつつ	権中納言定家(藤原定家)	「新勅撰集」
98	風そよぐならの小川の夕暮はかぜそよぐならのをがはのゆふぐれは	みそぎぞ夏のしるしなりけるみそぎぞなつのしるしなりける	従二位家隆(藤原家隆)	「新勅撰集」
99	人もをし人もうらめしあぢきなくひともをしひともうらめしあぢきなく	世を思ふゆゑに物思ふ身はよをおもふゆゑにものおもふみは	後鳥羽院	「続後撰集」
100	ももしきや古き軒端のしのぶにもももしきやふるきのきばのしのぶにも	なほあまりある昔なりけりなほあまりあるむかしなりけり	順徳院	「続後撰集」